八重山の四季にふれる本
約40年間気象台に努めた著者が、地元新聞や『情報やいま』、その他の出版物に寄稿した八重山の自然に関する文章を約100項目に再編集。
月ごと、季節ごとの気象全般や事象を豊富なデータと写真をまじえながら歳時記としてコンパクトにまとめた一冊。
石垣島気象台より提供していただいた八重山の「生物暦」(花の開花時期やホタルやツバメの初見時期他)と石垣島の「気候表」(月別の気象要素の極値と日別の気温平均値)を資料編として付しています。
「沖縄地方の風に関する古来の言葉」や「仲の神島」のことまで。
常に身近に置いて、豊かな八重山の自然に親しむための読み物、またはツールとして活用できます。
目次
春
3月
カンムリワシ/寒一日/2月風廻り/デイゴ/モズク/彼岸
・春一番
・裸足の名蔵大通り
・暖冬の珍事 モモイロペリカンの飛来
4月
陽春の入り/菜種梅雨/アカショウビン/春の突風/浜下り/月桃
イワサキクサゼミ/南十字星
5月
梅雨入り/愛鳥週間/オリオン座/フクギの花/野鳥の産卵期/浜ガン
・野鳥の方言名
・野鳥のコンサート
夏
6月
カーチーバイ/梅雨明けとハーリー/熱帯夜/ヤラブ/豪雨/海鳥
・ムリカ星
・ユドゥン
7月
6月ティダ/火風/夏の風景/雷3日/夏の風味/スク
・八重山の七夕物語
8月
ウードリ/アダン/海鳴り/フクギの実/マラリア/炎熱魚/サソリ座/ソーロン
・西表島の珍事 グンカンドリ
・台風の話
秋
9月
ミーニシ/秋の渡り鳥/9月の台風/岩手の種もみ/赤小豆
・秋の訪れ
10月
ソテツ/アダン/カンルーヤブリ/火の用心/ススキとサトウキビ
・新川の竜巻
・サシバ
11月
10月夏小/秋の七草/夏日の終わり/種子取南/11月の台風/コウノトリ
・タカナカピューマ
冬
12月
一陽来復/浮島/冬至寒さ/冬の季節風/黄砂
・異常乾燥
・ピキダー
1月
正月の野鳥/初日の出/大陸高気圧/冬鳥の探鳥/デイゴの落葉
・異常低温現象
・台湾坊主(温帯低気圧)
2月
シーブーバイ/不安定な気候/2月の植物と鳥/沖縄のサクラ/星昼間の南風
・卵大の雹(ひょう)
沖縄地方の風に関する言葉
・海鳥の楽園 仲の神島
八重山の気象と二人の気象人
・岩崎卓爾と瀬名波長宣
資料編
・生物暦
・気候表
・石垣島の主な気象要素の極値ベスト5 石垣島の日別の平均値
あとがき
書評 沖縄タイムス
まだ石垣島に夜間しか電灯がついていなかった時代のこと。ある夕暮れ時、奇妙な形をした大きな鳥が一羽、西のオッパイ山の方へ向かって悠々と飛んでいくのを見たことがある。夕焼け空の逆光だったから、その姿はほとんど影に近かったが、羽や嘴の形などは今でもはっきりと覚えている。幼心に不気味な予感、あるいは恐怖感すら覚えた。まるで恐竜時代の怪鳥のようだったからだ。
『八重山の自然歳時記』を手にしてみたとき、ふとそのことを思い出した。「西表島の珍事・グンカン鳥を釣る」というコラムにそれに似た写真があったからでもある。あれはグンカン鳥だったのか、いや、もしかしてコウノトリだったのかもしれない。そんなことをあれこれ思い出した。
八重山の四季を平易な語り口調で紹介するこの本は、約四十年間気象台に勤めた著者が地元新聞や雑誌『情報やいま』などに寄稿した八重山の自然に関する話を再編集したものである。前半は季節別、月別に気象や伝統行事、季節にまつわる言葉や伝説、野鳥の到来時期などが手際よくまとめられている。後半には「沖縄の風に関する言葉」や「海鳥の楽園・仲の神島」などが収録されており、意外な発見というか、ああ、そうだったのかと思わせるような話題が簡潔にまとめられている。文章も手慣れた省略の味があり、読者にさまざまなことを連想させるような効果を利かせている。だから、これは常に身近においておき、何か思い出したとき、あるいは何かを書こうとするようなときに、ちょいと参考にしてみる本として重宝かもしれないと思う。
また、これが地元で観光情報誌などを発行し続けている南山舎の「やいま文庫③」として発刊されたのが何だかうれしい。装丁からして-いま、石垣が元気だな、という印象を受けて頼もしい。
そこで、はなはだ僭越ではありますが、同郷の後輩からの提案として、この次は「八重山の花の歳時記」などをお書きになってはいかがだろうかとご期待申し上げます。
2003年11月1日付『沖縄タイムス』
真久田正(作家)