サバニが、海人(漁師)の叡知と結晶であることを物語る一冊
サバニ(沖縄の海洋文化を代表する伝統的な木の舟)造りの全行程を写真と文章でていねいに紹介。舟大工・新城康弘氏の生まれ島となる宮古、池間島での暮らしと生い立ちを通して、紺碧の海に育まれた沖縄の精神文化を追体験できる。サバニが、海人(漁師)の叡知と結晶であることを物語る一冊。
コンテンツ
序
第一章 池間島の海と暮らし
・生い立ち
・神高い島に脈打つ命
・ジイジイ(祖父)からの学び
・ヤーナラ フカナラ
・それから
第二章 舟大工・新城康弘のサバニ
・海の呼吸を知る舟
・ジャウビューイ
・材料
・道具
・サバニの構造と名称
・舟造りの記録
・造船工程
・舟具
・フナウラシユーイ
あとがきにかえて
・舟大工・新城康弘との出会い
資料編
・池間島位置図
・池間島をとりまく環礁の名前
・池間島の地名
・池間のスウニ
・池間の漁
・参考文献一覧
著者
安本 千夏(やすもと ちか)
1965年生まれ。東京都出身。1986年、青山学院女子短期大学児童教育専攻科卒業。幼稚園教諭、保育士を経て1998年に西表島に移住。著書『潮を開く舟サバニ』(南山舎)、共著『ミンサー全書』(編集・発行「あざみ屋・ミンサー記念事業」委員会)。
書評 2003年11月25日付 八重山毎日新聞
「だれかが書かなければ何も残りはしないんだよ。舟造りの技術も、当時の池間の暮らしも、わし自身のことさへもいずれみーんな忘れ去られてしまうから」一九二八(昭和三)年、沖縄県宮古郡池間島に生まれた舟大工・新城康弘の言葉である。
その舟大工とカヤックに魅せられ西表島に住み着いた著者・安本千夏が編み出す「サバニ造り」のち密な記録と「サバニ」をめぐる池間島の民族史。
著者は与那国島で初めてサバニに出合う。それは神行事で舷側を美しく彩ったサバニであった。海にとけこむサバニの姿が、伴りょのように思いを寄せているカヤックに似ていることに惹かれていく。
その思いは、かつて島人の生活の中で、帆に風をはらませ島人と共に島々を渡ったサバニへと向かっていった。
そこに石垣市白保に移り住んだ舟大工・新城康弘が二十三年ぶりに木造のサバニを造るという情報が約束されたかのように舞い込み、常識では考えられない老熟した舟大工の技術と、その技術を裏付ける池間島から脈々と受け継がれた精神の記録へと展開していく。
内容は「序」「第一章」「第二章」「あとがきにかえて」「資料編」「参考文献一覧」で構成されている。
「第一章・池間島の暮らし」は「生い立ち」「神高い島に脈打つ命」「ジイジイ(祖父)からの学び」「ヤーナラ フカナラ」「それから」と、一人の舟大工の目を通した池間島の民俗が、父、祖父、そして守姉とのかかわりのなかで、映像を見ているかのように色鮮やかに繰り広げられていく。全編に池間島の神歌が脈打つ。「潮を開き波に乗る舟」の来歴を、詩情豊かに選び抜かれた言葉で物語る。
「第二章・舟大工・新城康弘のサバニ」では「海の呼吸を知る舟」「ジャウビューイ」「材料」「道具」「サバニの構造と名称」「舟造りの記録」「造船工程」「舟具」「フナウラシユーイ」と、造船の流れを追って「学者でも研究家でもない漁師が経験によってあみだした技」が第一章の「生い立ち」を受け、その技術が生み出された背景と道具一つ一つについて、「全身全霊をかけ」「厳粛な神願いに近い」魂の投入を底流として記録していく。
「新城さんのサバニは最高よ。しけた海で波に乗るんだから」と海人の命を預けるに足る舟の造船工程を、このような民俗知識の裏付けによって報告された例は少ない。
「資料編」ではヤビシ(八重干瀬)に代表される環礁の細部にわたる名称をはじめ、地名、舟の名称、漁の道具とその漁法が古来の島言葉でつづられる。島言葉の甦(よみがえ)りでもある。そこに著者の深いこだわりがある。
「幼いころからの海と寄り添った生活によって、生きるために必要なものとそうでないものという境界線が明確に引かれていく」という舟大工・新城康弘の「仕事」を通して、自然から遠ざかり五感が閉ざされたわれわれの生き方に、多くの示唆を与える一書である。
内原節子(石垣市立図書館館長)