八重山の歴史に興味を持つ方に最適な入門書
先史時代、英雄時代、近世、近現代、戦争、戦後に時代を区分し、総勢十三名の各分野選りすぐりの筆者が四十三編のテーマで八重山の歴史を読み解く。文化の起源、オヤケアカハチの乱、人頭税、戦争マラリア、文芸復興など、様々なテーマ、角度から歴史が語られ、読者は自分が興味のある時代・テーマから読み進めることができる。時代ごとに解説のページを設けているほか、巻末に「注釈」、「八重山歴史略年表」、「人名・地名索引」付。
コンテンツ
先史時代(解説)
・八重山の先史時代を解くキーワード(大浜永亘)
・海と文化の伝播(石垣博孝)
・川平村の文化財(石堂徳一)
・古来の犬・琉球犬―移動にみる人(文化)の起源― (石堂徳一)
英雄時代(解説)
・今、アカハチの乱を振り返る~オヤケアカハチ没後五百年~(砂川哲雄)
・慶来慶田城用緒 南海に活躍した古琉球期の雄(崎山直)
・「古琉球」を歩く―城跡・外寇・交易など―(崎山直)
近世(解説)
・八重山の辞令書(新城敏男)
・八重山の村落と風水(新城敏男)
・八重山の医者事始め(新城敏男)
・航海への祈り 一尋の手巾―(新城敏男)
・近世八重山の流通事情(新城敏男)
・八重山のウミンチュ(新城敏男)
・時代に揺れる十六日祭(新城敏男)
・クサティムイ(新城敏男)
・与那国小唄の記憶(新城敏男)
・島から島へ―烽火通信のこと―(崎山直)
・近世の島と村―寄百姓のこと―(崎山直)
・親廻り―島々村々の巡視―(崎山直)
・異国船の来航―岸辺を打つ世界史の潮流―(崎山直)
・石垣島北部の村々(大田静男)
・すい星と八重山古代人(大田静男)
・パイパティローマ伝説の村(通事孝作)
・与那国島の伝説(米城惠)
・星見石と人頭税石(黒島為一)
近現代(解説)
・八重山の苗字(新城敏男)
・八重山に貢献したイノーのナマコ(大田静男)
・廃村・安良村跡に立つ(牧野清)
・文芸同人誌『セブン』の誕生(砂川哲雄)
・波照間島の燐鉱採掘~景気を浮揚させ住民生活を潤す~(通事孝作)
戦争(解説)
・西表島における日本軍の戦争犯罪(大田静男)
・軍神と詩人(大田静男)
・神水(大田静男)
・戦争遺跡の保存を!(石堂徳一)
・八重山・戦争マラリア補償問題(石堂徳一)
・ゲルニカと戦時下八重山の戦争報道(石堂徳一)
・八重山の戦争と皇民化教育(石堂徳一)
戦後(解説)
・村山秀雄と戦後八重山の文芸復興(砂川哲雄)
・とぅばらーま大会創設のころ(南風原英育)
・琉米文化会館とその時代(山根頼子)
・発禁本『愛唱歌集』(石堂徳一)
・古代文化の原型つかむ―早大・八重山学術調査団―(南風原英育)
・文化の根源を追究する岡本太郎の見た八重山(南風原英育)
・本文中の注
・八重山歴史略年表
・著者プロフィール
・索引
書評 沖縄タイムス
八重山の歴史を「人頭税・島分け・明和の大津波・マラリア」の「四大悲劇」として語ろうとしたのは喜舎場永サcであった。人頭税の過酷さを語ることによって自らの地域の歴史的停滞性を弁護しようとしたわけでもないだろうが、岡本太郎は喜舎場のその歴史観の背景にある後ろ向きの姿勢を叱り、一九五九年の沖縄・八重山旅行の成果をまとめた『沖縄文化論-忘れられた日本』で八重山の歴史がつくり上げた純粋な美しさ=個性の豊かさをたたえた。本書にはこのようなエピソードが随所にちりばめられており、面白い。
本書は、それぞれの執筆者の研究テーマとトピックを交え配列することによって、岡本がたたえた美しく豊かな個性をはぐくんだ八重山の歴史の流れを、分かりやすく描き出そうとしている。その流れは「先史時代」「英雄時代」「近世」「近現代」「戦争」「戦後」という六つの時代区分によって示され、その内側を十三人の執筆者が四十三のテーマで解き明かして見せてくれる。
「読本」を名乗るように、通常の歴史入門・概説書とは異なって、読み物としてどの文章からでも入り込んでいける。それぞれの文章が『情報やいま』という地域雑誌に寄せられたものであり、地域の人々に語り掛けるように書かれていて平易で分かりやすい。
十年前から掲載された文章、しかも多数の執筆者による文章をまとめるという作業は、得てしてかび臭くなったり、主張にぶれを生じたりしがちであるが、本書はそれらから自由であり得ている。それはそれぞれの執筆者の郷土・八重山の歴史と文化に対する深い愛情と確固とした認識によるものであろう。
これだけの人材を今現在有し、そしてこれらの人々の仕事を「やいま文庫」と銘打って出し続けていく地元出版社があるというところに、つくづく八重山の文化的な風土の力を思う。地域文化に貢献する書肆の健闘をたたえたい。
2004年8月14日付『沖縄タイムス』
波照間永吉(沖縄県立芸術大学附属研究所教授)