宮良長包とその歌曲を支えた詩人達
第一章は、新たな資料に基づいて書かれた長包の生涯を、第二章では新発掘の「嵐の歌/嵐の曲」や「宮良橋の歌」に関するものと、長包を抜擢した校長・和田喜八郎のこと、長包の最後を看取った元看護婦・屋嘉比富子さんの証言を収録。第三章は長包歌曲を支えた詩人たち(大浜信光、金城栄治、宮良高夫、泉国夕照、宮良高司、宮里静湖、北村重敬)を取り上げ、作詞の世界から長包歌曲へアプローチ。「宮良長包年譜」「宮良長包作品一覧」付。
コンテンツ
1.近代沖縄音楽の父 ―宮良長包の人と音楽―
・はじめに
・郷土音楽への目覚め
・情操教育に燃える
・音楽の方向性つかむ
・先駆的な教育観と実践
・音楽の民衆化
・「綾雲」事件
・教育の郷土化
・晩年―新しい国楽を目指して
2.長包音楽とその時代
・教育者としての宮良長包 ―個性と情操重んじた教育―
・長包を抜擢した校長 ―和田喜八郎の教育思想―
・発見された幻の組曲「嵐の歌/嵐の曲」―その意義と時代背景―
・新発掘「宮良橋の歌」―架橋の歴史歌う―
・宮良長包の最期 ―臨終を看た元看護婦の証言―
3.長包メロディーを支えた詩人たち
・「嘆きの海」越えて ―大浜信光の詩の世界―
・「えんどうの花」はどこで咲いたか ―金城栄治とその教え子たち―
・「南国の花」に魅せられた校長 ―北村重敬とその作詞をめぐって―
・「なんた浜」よ永遠に ―抒情詩の名手・宮良高夫の生涯―
・民謡調でコンビを組んだ詩人 ―泉国夕照の詩的人生―
・小浜島で生まれた「山の子守唄」―宮良高司の苦難の人生―
・久米島「桑の実」の里に生きる ―宮里静湖の文学航路―
著者
三木 健(みき たけし)
1940年、沖縄石垣島生まれ。八重山高校、明治大学政経学部卒業後、1965年琉球新報社入社(東京支社報道部記者)。同社編集局政経部長、取締役編集局長を経て、現在常務取締役。主な著書に「西表炭坑概史」、「八重山近代民衆史」、「八重山研究の人々」、「リゾート開発」、「沖縄ひと紀行」などがある。
書評 八重山毎日新聞
このたび、2002年に刊行された三木健著評伝『宮良長包-「沖縄音楽」の先駆-』(ニライ社)に次いで『宮良長包の世界』が南山舎より発行された。
今年三月には、大山伸子さん(沖縄キリスト短期大学助教授)との共編著『宮良長包著作集』(ニライ社)を刊行されたばかりである。
三木さんは、バガー島石垣の誇りである楽聖・宮良長包研究に意欲的に取り組み、次々と埋もれた作品や著作の発掘ならびに関係者を訪ね資料を収集、証言等で宮良長包の世界に光をあて長包メロディーとその存在感を甦(よみがえ)らせた。
「まだまだ未発表の資料があり、どうしてももう一冊長包に関する本を出しておきたい」との執念の一冊がこの『宮良長包の世界』である。
「このままでは発掘された資料や証言がまた歴史の彼方に埋もれてしまいかねない。この際、長包歌曲を支えた詩人たちのことについても、私の知り得る限りのことを記録にとどめ、長包の世界をより豊かにしたい」と著者自身が述べているように、豊富な資料に裏打ちされた本書は、読者をぐいぐいと長包の世界へ引きずりこんでいく。
数々のエピソードあり、証言あり、当時の長包音楽の世界、社会状況などがリアルに記述され、なつかしさもこみ上げてくる感動の書である。
三章構成による本書は、第一章で近代音楽の父-宮良長包の人と音楽-について述べているが、わけても先駆的な教育観と実践は、沖縄音楽の先駆としてだけでなく、民主教育の先駆者でもあったことに驚嘆させられる。
音楽による自己表現(心)は自己実現へ結ぶ。発音唱歌等にみる長包の教育信念、自らを正す校長自訓など、明治憲法下の皇民化教育の中にあって音楽を通して貫かれた人間教育に尊敬の念は深まる。
長包の教育の原点は音楽の心、やさしさであった。真のやさしさは、権力に屈しない、動じない強さがある。長包の強い意志と勇気はそこから生まれたのである。そんな長包にも、綾雲事件のような長包歌曲にまつわる裏話があり人間くささも感じる面白さがある。
第二章・長包音楽とその時代には、身近な存在の平地展裕先生が「へき地教育に生きるアコーディオン先生」で登場。陽(ひ)の目をみた幻の組曲「嵐の歌/嵐の曲」(嵐の歌の作詞は当時測候所勤務の瀬名波長宣氏)のエピソード、楽譜発見など、台風銀座と言われた石垣島の台風をモチーフにした組曲「嵐の曲」をぜひとも聴きたいものである。
「宮良橋の歌」にまつわる話、宮良長包の最期を看(み)た元看護婦の証言等、人間長包の温かさが読者の胸に迫る。
第三章・長包メロディーを支えた詩人たちでは、七人の作詞者をとりあげ作詞作曲の裏話を披露。えんどうの花はどこで咲いたかなど興味はつきない。
豊富な資料と証言に基づく本書は、著者の優れた表現力に伴う巧みな筆致で読者を宮良長包の世界へと誘う。その感動に読者の心が洗われる。
宮良長包の世界に浸り、人間長包を本書を通して偲(しの)んで頂ければ幸いに思います。
2004年7月22日付『八重山毎日新聞』
宮里テツ