「人間も自然の中の一種だということを忘れちゃいけないんです」
点描画で見る八重山の魅力
生き物、自然をこよなく愛し、石垣島に移住して20年余り。独特の点描画で繰り広げる世界観が八重山の魅力を引き出す初の作品集。どの作品も繊細で温かく、時には図鑑のように、また時には絵本のように語りかけてくれる、新しいスタイルの作品集です。
コンテンツ
巻頭カラーページ
ユラユラとゆらめいて
キラキラと光が散って
波の底からさし戻って来る…
熊谷溢夫
緑があって
花が咲いていて
空には ちゃんと…
海のなかの風景 in the blue
深い 深い
濃い紺緑のうねりの中に
大きな いのちが
うごいて行く…
おはなしの世界
・石垣島の民話
・お天気を偵察するフクルペー
・お陽さまを食べたお魚の話し
森と海の時間 forest and sea
見れば 見る程 おかしいね
どれも これも
ちょっと変わっていて
なんでかねー…
熊さんの沖縄の食
・沖縄的食のバランス
・おさしみの話
著者
書評 八重山日報 ~点々が本になった~
熊さんのイラスト集がついに出ました。
「美しい自然があるからみんな元気で生きられる。」という長いタイトルに熊さんの想いが込められているようですね。B6でモノクロの小さな本ですが、カバーの裏にまで熊さんのイラストが載っていてうれしくなってしまいます。
熊さんの絵は「点描」という手法で描かれています。こつこつ点々を打ち続けてやっと一枚の絵を仕上げる熊さんの根気には脱帽です。
実は私も学生の頃点描に凝っていました。と言っても絵の勉強をしていたのではなく、生物を観察する眼を鍛えるためにスケッチをしていたのです。
今ではもう、点々で絵を描くような根気をなくしてしまった私は、それだけでも「熊さんはエライ!」と尊敬してしまいます。驚いたことに、熊さんの点々は製図用のロットリングペンではなく、どこの文具店でも売っている先の細いペンで打たれています。「誰でも根気さえあればできることをただ面白がって夢中になってやっているだけ」とでも言いたそうな熊さんの顔が見えるイラストですね。
今回この本を読んで熊さんが67歳だと初めて知りました。今まで「熊さん熊さん」と友達のように気軽に話していましたが20歳も先輩だったんです。好きなことを面白がって夢中になってやっている人は歳をとらないようですね。
熊さんとは十数年前から親しくしていただいていますが、本当に面白い人です。最初は「ちょっと変わった看板屋さんだなぁ」と思っていましたが、ちょっとどころではありませんでした。点描以外にも線画も描くし、切り絵や木彫、焼き物までやっています。工房を訪ねるたびに楽しい失敗談を聞かせていただき、元気を分けてもらっています。
ところで、熊さんのイラストは生物屋が見ると「ちょっとプロポーションが違っているのでは?」と思える部分があります。失礼ながら、以前そのことを本人に話したら、やさしい熊さんは少しも怒らず「絵はイメージを描くものだから、これはこれでいいんだよ」と答えてくれました。
去年、熊さんと一緒に「アンパルまっぷ」を作った時にはずいぶん細かい注文を出しました。「この植物はアンパルに無いから差し替えて」とか「鳥の羽の重なり方がおかしいから直して」などと、何度も描き直しをしていただきましたが、普段描いている芸術イラストではなく、科学の絵であることを納得して下さり、なかなか良い仕上がりになりました。
熊さんには時々タダで絵を描いてもらっています。河川改修や公園整備、赤土対策のアイデアをまとめてラフなスケッチを持って行くと、二・三日でイメージ通りの線画のイラストが仕上がってきます。「夢のあるものを描いている時が一番楽しい」というお言葉に甘えて、面白いことを考えては「熊さん、こんなのどう?」と、お願いし、仕上がったイラストに色鉛筆で色を塗っています。
そういえば、熊さんのイラストを印刷した紙をランチマットに使っているレストランがありますが、汚すのがもったいないからと、大事に持って帰って塗り絵をする子供達もいるとか?
このイラスト集にも拡大コピーして色を塗りたくなるようなステキなイラストが満載です。二千五百円という値段も毎日毎日点々を打ち続けた熊さんの根気を思えば安いものですね。
2003年11月15日付『八重山日報』
谷崎樹生(自然観察指導員先島地区連絡会員)