歴史を語る貴重な写真と秘められたドラマの数々。
明治・大正・昭和戦前期・戦後と、時系列で読み解く国境の島の物語。
2015年2月22日付『八重山毎日新聞』
2015年3月3日付『八重山毎日新聞』
「町史を作る男」として知られる与那国島の米城惠氏が、「情報やいま」に連載してきたシリーズから選んで本書をまとめた。写真78点に解説を付し、各トピックスを、古琉球から昭和(戦後)まで時系列に沿って並べている。
与那国の写真の記録は1904年の鳥居龍蔵を嚆矢とする。
本書は遡って1500年の宮古軍の与那国入り、関連エピソードを写真で紹介していく。
かんぶなが(の節、祖先が降臨する25日間の冬祭り)に始まりかんぶながに終わる、あるいはサガイ・イソバに始まりサガイ・イソバに終わると言ってもいい。始祖神話から民俗行事、人生儀礼、明治近代化、昭和の戦争と戦後の密貿易、復興に至るまで、激動の時代を生き抜いてきた国境の島の、悠久の歴史を縦横に語っており、どこから読んでも興味は尽きない。
「発見秘話」も多い。集合写真の人物は一人一人特定され、個々の島民が主役の聞き書きの書でもあるのだ。「与那国小唄」の制作過程と作曲者の発見(ちなみに奄美・徳之島では「亀津小唄」としてうたい継がれている)、石垣島のトバルマ大会や東京でのNHKのど自慢大会出演者の、不測の事態を乗り越えての絶唱、尖閣諸島がクバの葉の供給地であったこと、密貿易時代の未曾有の繁栄ぶりなど、具体的なデータを示しつつ「あの日・あの時・あの人」を蘇らせる。「祖先の霊は元屋敷に宿る」かんぶながでのタマハティ(憑依の舞)は、各家筋の内部からの観察が見事だ。
背景には20年におよぶ町史刊行のための、綿密な調査の裏付けがある。1997年の「写真集」に始まり、「地名と風土」「民俗篇」と続く重厚かつ斬新な内容は、およそ市町村史の常識を打ち破るものとして、高く評価されてきた。
初心を貫く悠然たる仕事ぶりは、驚嘆に値する。著者の卓越したジャーナリスト魂と愛郷心、ひらめきと誌心が存分に発揮された一書として、広くおすすめしたい。
2015年4月4日付『沖縄タイムス』
本書では、古代~現代に至るまでのドゥナン=与那国の歴史を、70枚以上の貴重な写真とそれらに添えられたエッセーを通して概観することができる。
個々のエッセーは、これまで与那国町史編纂(さん)委員会をけん引してこられた米城惠氏による歯切れのよい文章でコンパクトにまとめられている。時系列に沿って読み進めるもよし、気の向くままにページをめくり目にとまった写真を眺めつつエッセーを読むもよし、いろいろな楽しみ方ができる本である。どんな楽しみ方をするにせよ、読者諸氏は本書を読み進めることで、かつて「国境の島」どころか琉球王国の版図ですらなかったドゥナンの長い歴史に思いをはせることができるにちがいない。
本書は、南山舎から刊行されている「月刊やいま」に、1999年から2013年にかけて連載された「むかし八重山」の記事を再編集したものである(なお、本書のなかで「昨年」と記されている年は、「2014年」のことではなく、「月刊やいま」初出時における「昨年」のことを指している場合がある。その点、読者諸氏にはご注意願いたい)。さらにその元をたどれば、1997年に与那国町史別巻として刊行された記録写真集「与那国 沈黙の怒涛(どとう) どぅなんの一〇〇年」に行きつく。
私事になるが、実は当時、与那国に滞在していた私は、米城惠さんに声を掛けていただき、この記録写真集の編集のお手伝いをさせていただいた。20年近くも前のことになるが、収録候補として集まった膨大な数の写真に圧倒されたことは、今でも強い印象として残っている。本書には、これら膨大な写真群の「エッセンス」である記録写真集の中から、さらに選び抜かれた写真が多数収録されている。その意味で本書は、与那国町史編纂委員会のこれまでの活動の、いわば「エッセンスのエッセンス」であるともいえる。
大判の重厚な写真集や市町村史の類いは、ふだんは書架に収まったままになっているという人も少なくないだろう。与那国の歴史を通観できる本が限られている中で、本書が「やいま文庫」の一冊として、多くの人の目に触れ、気軽に手に取ってもらえる形で刊行されたことを喜びたい。
2015年5月31日『琉球新報』
タイトルを見ただけで、
私が見ているけれども見えていなかった与那国の姿が
記されているように直観した。
与那国へは、仕事で何回か行ったことがある。 住んでいる那覇とは全く異なる風景が広がっていた。 島のどこにいても、潮の香りを感じ、むせ返るほどの存在感を示す深い緑の山々に圧倒された。 小さいけれども、包み込むような優しさと、近寄るものをはねつけるような厳しさを感じた。 いろいろなことを考えながら、仕事が終わったあと、宿のベランダや、海べり、学校の校庭がみえる場所などで、ビールを飲むのが心安らぐ時間だった。 膝の上に置いた本の重さを感じながら、西の海へ落ちていく落陽を見る。ここは那覇から遠く離れた与那国なのだと、実感することもあった。
結局、安易に与那国島での時間を過ごしてしまったような気がしてならなかった。 何回与那国島を訪れても、与那国を理解することは難しいのかなとも考えていた。 そんなことを考えていたことを思い出させる本に出会った。
『よみがえるドゥナン』。
タイトルを見ただけで、私が見ているけれども見えていなかった与那国の姿が記されているように直観した。
本書は、古琉球から明治・大正、昭和まで、与那国の五百年余の時代を駆け抜けていく。 あっという間に古琉球時代の与那国があらわれ、そこから明治・大正の与那国となり、そして戦前・戦中・戦後の与那国が、歴史というベールの向こうからゆっくりと姿を現してくる。一枚の写真が出す迫力と、緻密な取材から紡ぎだされる文章。 そこからは、昔も今も変わらない与那国であり、ゆっくりとではあるが、変容する与那国でもあるのだ。
本書は、フルスピードで昭和の時代まで一話ごとに一枚の写真を配し、そこから話が始まっていく。 何の衒いのない文章で、淡々と書いているのだが、米城さんが描く世界に惹きこまれていくのだ。 まるで五百年前の「さがい・いそば」や明治の笹森儀助、鳥居龍三が目の前に現れてくるようだし、与那国の古今の庶民が生き生きと描かれていて、思わず語り掛けてみたくなるほど。
しかし、それは与那国の断片であり、私たちが見ることのできないベールの向こうの与那国の存在を知らせてくれるものでもあるように思う。 風景があり、庶民の生活があり、与那国の人々の表情がある。旅人の感傷など、何の力にもならないことも教えてくれる。 ありのままの与那国の姿があるだけだ。 しかし、本書を手にして与那国に渡ったら、これまでとは違う与那国を感じることができるかもしれない。 じっくり味わってみたいと思わせる好著である。
2015年6月『沖縄本.com』
1941年4月、与那国村(現・与那国町祖納)生まれ。琉球新報記者、(株)リクルート< 東京> コピーライターを経て、現在、与那国町史編纂委員、与那国町文化財保護審議委員長、与那国の地名を歩く会会長。『与那国町史別巻Ⅰ 記録写真集 与那国』(平成9年、与那国町役場)、などを企画・執筆・編集。共著に『御冠船夜話』(共著者・古波蔵保好、城間繁、若夏社)がある。沖縄タイムス出版文化賞特別賞、風土研究賞(日本地名研究所主宰、会長・谷川健一)、八重山毎日文化賞などを受賞。 |
仕様:B6判 ソフトカバー 292ページ
発行:南山舎
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