快適な島暮らしのヒントになる 建築エッセイ
湿度、風、光、土…
沖縄・宮古島の建築士は、風土をどう「読む」のか。
閉じながらも開いて、自然とうまくつきあう家ー。
この蒸し暑い環境で涼しく暮らすためには、いかに開いて涼風を引き入れるか、また、猛烈な台風から守るためにはどのように閉じるか。
「開きつつ閉じる」という相矛盾する難題を、私たちの先人たちは解決してきた。
その築き上げた知恵の集積を引き継ぎ、現代の住まいづくりに生かしていきたい。(本文より)
著者が長年にわたり沖縄・宮古島にて一級建築士として島の建築に携わる中で見えてきた、快適な暮らしへつながるヒントとは?
知ればきっと、自分を取り巻く環境を見る目が変わるはず。
島での暮らしの中で発表してきたエッセイをまとめた「1部・島でおもう」や、講演を収録した「2部・島でつくる」。講演部分では専門的な話を分かりやすく、図や写真を豊富に掲載。
。。。つづきは本をご覧ください。
以前、知人の住む市営馬場団地を訪ねて驚いた。団地に対して持っていた単調なイメージがなかったのだ。わが家らしい設えを楽しめる玄関前のポーチなどに居心地の良さを感じ、住んでみたいと思った。
その設計を手がけられたのが伊志嶺敏子さんだ。1978年に郷里宮古で一級建築士事務所を立ち上げ、以来第一線で活躍してこられた。
本書は著者が新聞等で執筆したエッセイと講演内容が収録されている。旅の好きな彼女は、進学で島を離れ、帰郷してからも、フィールドワークを兼ねて様々な土地に足を運ぶ。さらに宮古の島じゅうを歩き回り、得た気付きを、かたちにしてきた。都会的な感覚で設計した住宅が施主に受け入れられず、竹富島を旅したとき集落の景観を目にして疑問が鮮やかに解けたこと。新しい団地の基本構想づくりで住民の中学生たちに質問すると「馬場団地みたいなのがいい」と言われ嬉しかったこと。「緩衝帯」の大切さ。共有する「場」を設けること。
インプットとアウトプットの繰り返しは、著者のテーマ「閉じつつ開く」にもつながる。高温多湿で台風も多い宮古島で、人々の住まいをつくるために心を砕きながら、足取りや思考はその文体のように軽やかだ。
本書は「八重山手帳」や今年創刊30年を迎えた「月刊やいま」など、地域に根ざした出版で知られる南山舎の上江洲儀正社長と筆者との出会いによって生まれたという。宮古と八重山が連なる先島諸島に花が咲くイメージで企画された、新シリーズ「咲島BOOKS」の第一弾である。
咲島のロゴが浮かぶ、擦りガラスのような半透明の帯に包まれた表紙がまたいい。青空と水平線と砂浜、手前には白い花ブロック。著者が好んで使う、風を取り入れるための沖縄らしい工夫が、装丁にも凝らされている。開くと私も島の風を感じた。
島の少年少女たち、若い世代が、どうかこの本を読んで、伸びやかな目で世界を見てきてほしい。そしていつか、よりよく暮らすこと生きることに思いを巡らすとき、本書は素晴らしいヒントを与えてくれるはずだ。
(根間郁乃・地方公務員)
伊志嶺敏子(いしみねとしこ)
1948年宮古島市字平良出身。奈良女子大学住居学科卒業。浅井設計、GKインダストリアルデザイン研究所、上野雄司建築設計事務所、東京工芸大学工学部建築科助手を経て、1978年5月、宮古島に伊志嶺敏子一級建築士事務所を開設。日本建築家協会沖縄支部、沖縄県建築士会宮古支部所属。
【主な設計】平良市営馬場団地、沖縄県営平良団地、環境共生住宅プロトタイプ市街地型、郊外型設計、住宅など。
【主な受賞】HOPE計画20周年記念特別表彰HOPE大賞、地域住宅計画奨励賞など。
このシリーズは、宮古と八重山を一つにした呼称である「先島」を、鮮やかな花々が咲く美しい島々というイメージで「咲島」と名付け、誕生しました。
同書は、この新シリーズの第一弾となります。
この本は、八重山のお隣・宮古島の一級建築士による建築エッセイ集です。
「なんで島の古くからの道は曲がりくねっていて直線じゃないんだろう?」や、「小さな島々は台風とどうやってうまく共存しているんだろう?」といった日常の中でふと感じていた疑問…、この本を読むとスッキリしたり、ヒントをたくさんもらっている気持ちになりました。
「どんな風がいつどこから吹いてくる」そんなことを知っているだけで、自分の住んでいる地域の特性を理解することで、他所と比べてのイライラやひがみなどがなくなって、ここで生きることにより納得しながら、島を、ひいては生活や人生を楽しんでいけるのでは、と思いました。
島にとどまらず、諸国を旅してきた著者が、世界の国々と宮古島を比較して思ったことなど、その豊かな感受性に引き込まれ、清々しくなりました。
「閉じつつ開く」という意味深なタイトルの回収も、もちろんあります!
また、同書は宮古と八重山を一つに結ぶ「咲島BOOKS」(さきしま・ブックス)シリーズの記念すべき第一弾となります。どうぞお見逃しなく!
発行/南山舎(2022年5月)
判型/四六判 188頁 ソフトカバー
装画・挿絵/飯田 あかね
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